EEC2011始まりました

Sdscn3733今日からしばらく、ポーランドワルシャワの郊外にて開かれているEEC2011(European Entrepreneurship Colloquium)の参加記録を書き留めていきたいと思います。

初日は、4時から開会し、5時15分から6時45分までの1時間半、今回のColloquiumのメインプレゼンターであるHBSのWalter Kuemmerle教授から、「International Entrepreneurship as a Promising Field for Research and Training(研究と教育の将来有望な分野としての国際的起業論)」と題する基調プレゼンがありました。そして、その後7時から近隣のレストラン(幼稚園?)のようなところに行って、レセプションパーティーでした。

ワルシャワ空港からバスで会場に着いたのが3時30分過ぎだったこともあり、少し汗を流してからでいいや、と思っていたら4時からの開会にうっかり10分ほど遅れてしまいました。まだ冒頭で主催者のEFER(European Foundation for Entrepreneurship Research)のYupar Myint教授があいさつをしている最中だったうえ、私と同じようにシンガポールの南洋大学から来ていた教授も遅れて参加したので(笑)、あまり会場の注目は浴びませんでしたが、2重のコの字に配置された席の外側はすでに埋まっており、内側の小さいコの字の席に座ることになりました。

Yupar教授に続いて、EFERの偉い人が何人か「Entrepreneurshipとは何か、EECに参加される皆さんに求められることは何か」みたいなあいさつスピーチをした後、Walter教授のプレゼンがスタート。HBSの教授らしい、早口で精悍な、でもすごく聞き取りやすい英語で話が始まりました。この彼の話が、本当にEntrepreneurshipらしい、聞いていて楽しい、でも勇気あふれる気持ちになるものでした。この話を聞くだけでも、EEC2011に来られて良かったと思ったぐらいです。

Walter教授の話はとても楽しかったのですが、プレゼンの下敷きになった彼のInternational Entrepreneurshipの説明やそのコースストラクチャ以外の話題で、記憶に残っていることを箇条書きにしておきます。

  • 自分のバックグラウンドはファイナンス理論と経営戦略で、皆さんもご存じのMichael Porterが論文の指導教授だった。HBSで「International Entrepreneurshipを教えてくれ」と言われるまで、Entrepreneurshipについて勉強したことも、もちろん経営の経験もなかった。90年代後半、31歳の時だった。
  • それでEntrepreneurshipについて研究を始めたが、この領域は「タマネギの皮をむく」ような領域である。つまり、教えている内容からMarketing、Strategy、Leadership、Finance、Managerial Accounting、、、と、経営学の要素をはぎ取っていくと、実は何も残らない。それらを全部寄せ集めて、「Entrepreneurに関する〜〜」と題したものが、Entrepreneurshipという領域の実態。
  • だから、アカデミアの世界では例えばFinanceを研究して新たなValuationの手法を開発して論文に書くほうが、Entrepreneurshipの話で本を書くよりもずっと評価が高くなる。それでもEntrepreneurshipにコミットするとしたらなぜか。それは、「まだ誰もこの領域について本や論文を書いていない」、だから我々にも世界的に有名になれるチャンスがあるということだ。
  • Entrepreneurshipはさまざまな分野の融合した領域だ。私はファイナンスと経営戦略だが、明日ケースプレゼンするKhumarは社会学が専門だ。今日集まっている皆さんにも、マーケティング、マクロ経済、テクノロジーなど、さまざまなバックグラウンドの人がいる。だから、皆さんはEntrepreneurshipの幅広いSpectrumの中から、自分に合っていると思う意見や議論をつまみ食いすれば良い。
  • Entrepreneurshipに関する研究は、1920年代のシュンペーターがその始まり。ただ、彼はマクロ経済における起業家の役割について述べたが、実際のEntrepreneurは自分たちがマクロ経済において有効だからとかそんなことを考えて起業するわけではない。そこで1960年代以降、「人が起業家になるのは、彼がそういう性格の人間だからだ」という、人格性についての議論が出てきた。また、85年頃からベンチャーキャピタルという組織が生まれ、シードからアーリーステージの企業向けに特化した一連のファイナンスの理論が出現した。
  • 1990年代以降、人格によってEntrepreneurを定義する人々に代わり、Entrepreneurshipのcontextを問題にする人々が出てきた。なぜかというと、「国によって極端に起業家の出現頻度が異なる」ことが、国際比較研究の中で分かってきたからだ。つまり、人は性格的にそうだから起業家になるのではなく、さまざまな環境要因の中で起業家になるのではないか、ということだ。また、私が99年に世界で最初のInternational EntrepreneurshipというコースをHBSで始めたが、その頃から国境を越えたcontextを利用する起業家、という存在が議論の俎上にのぼるようになった。2007年から、「Strategic Entrepreneurship Journal」という学術誌も創刊され、戦略についての議論もされるようになってきた。
  • ただし、実際のところ、中小企業(SME)に戦略はない。私は本当はSMEが嫌いだ。それはたいていの場合、政府の補助金と結びついた世界に安住していて、Entrepreneurshipとは対極にいるからだ。Entrepreneurは1つの戦略に固執しないという特徴を持つが、Growthを目指さないただのSMEには戦略そのものがない。
  • 私は10年間HBSで働いたが、やがてアカデミアの枠に限界を感じるようになって、結局そこを辞めた。今はいくつかのベンチャーキャピタルベンチャー企業のアドバイザーをしながら、HBSや大企業の研修などをやっている。ケースベースで論文を書くのは、ただの論文を書くのに比べてずっと難しい。だが、論文を書けばそこで終わりのアカデミアよりも、私は実際のベンチャーやEntrepreneurshipを身につけたいと思う人たちと一緒になって、そのネットワークを結びつける役割を果たすことのほうに、より意義を感じるようになったということだ。
  • Entrepreneurshipを教えるために必要な要素は4つある。Tools(ケースとか、フレームワークとか)、Judgement(何をEntrepreneurshipと定義するかの判断)、Network(Entrepreneurたちとの人脈)、そしてFun(自分がこの領域にかかわること、それを教えることで楽しんでいること)だ。
  • アカデミックの中でEntrepreneurshipにかかわっていこうとされている皆さんへ。Entrepreneurship、中でもInternational Entrepreneurshipは、とてもpromisingな領域です。Entrepreneurshipの教授はときどき学内で変な目で見られることがあるが、International Entrepreneurshipの教授は、もっとそうだから(笑)。しかし、この領域は学内では異端かもしれないが、大学という枠組みを超えて、こうして世界中とつながっている。統計的に見て、International Entrepreneurの成長率はDomestic Entrepreneurよりも高い。そして、MBAホルダーこそがこの分野の担い手だ。彼らはInternational Entrepreneurとなるべく生まれてきた人たちだからだ。
とまあ、たくさんのユーモアを交えつつも、非常に勇気づけられる話がばーっとたくさんありました。特に彼がIEのコースを担当するまではEntrepreneurshipについて研究したことも、もちろんベンチャー企業やキャピタリストをやった経験もなかったというのは、非常にimpressiveでした。彼は「Entrepreneurは自分で自分の経験を客観視し、相対化することは苦手。だからこそアカデミックな分析や研究が非常に重要になる」とも話していました。

夜のレセプションパーティーでは、主催者のYupar教授、ドイツのライプツィヒから来たAugstinと、ノルウェーのトロムソ大学から来たElin、オランダのEindhovenから来たYingなどと話をしながら食事ができました。日本のEntrepreneurshipについて「今日のWalterの話を聞いて、日本のcontextが非常に難しいことを改めて感じた」と話すと、Yupar教授が「英国もそうよ。優秀な人は米国の大企業に入るから、Entrepreneurと言えば企業に雇ってもらえない重大な欠点のある人や失業者と相場が決まっている」と嘆いていました。Yupar教授自身、ビルマ人ですが高校まではタイで育ち、その後英国に来て、ドイツ人の夫と結婚して…という、微妙に「異端」な人生を送っている人なので、たぶんEntrepreneurに対するシンパシーがあるのでしょう。

彼女と話すことで、Entrepreneurshipを教えなきゃ!と思う人たちの結束力、団結力はとても強いけれど、社会的に見て常に「異端者」扱い、冷や飯食らいというのが日本だけの話でもないのだなということで、またまた勇気づけられた(笑)次第です。