ごあいさつ

川上@IMEです。2008年6月の1ヶ月、スペインのIESEに短期留学することになりました。このブログは、Gの社内の皆さん向けに、私がIESEでどんなことを学んだのか、なるべくリアルタイムでご報告し、社内で私の留学での経験を共有していただくためのものです。記事を読んで感じたことなどがありましたら、どうぞお気軽にコメントをお寄せください。

留学そのものは来週(5月26日に日本を出発する予定です)ですが、日々のご報告をアップしていく前にまず私の留学の目的や決まった経緯、IESEについてのことなどを以下に少し述べておきたいと思います。

【IESEとはどんな学校か?】

まず、留学先のIESE(真ん中の「エ」にアクセントを置き、「イエセ」と読む)について簡単にご説明しておきます。

IESEというのは、スペインのバルセロナにあるビジネススクールです。IESEは本当は「University of Navarra(ナバーラ大学)」という大学の一学部ですが、この大学は1958年に設立され、その2年後にMBAスクールであるIESEが開設されているので、実質的にビジネススクールとして設立された学校と言っても良いと思います。





GMSリトリートに参加された方はご存じと思いますが、IESEは欧州のMBAスクールの中でも近年MBAランキングを急上昇中の学校です。2年制のフルタイムMBA、各種のエグゼクティブMBAコースなどを持っています。MBAコースはHBSと共同で開発された「元祖ケースメソッド」であるというのが同校の売りの1つとなっていて、そのあたりの詳しいことは日本人学生が作った以下のIESEの非公式サイトに詳しく書いてあるので、ご参照ください。

http://homepage2.nifty.com/labamba/iese/iese_top.html

で、私が今回参加するのは、フルタイムMBAでもエグゼクティブMBAでもなく、「インターナショナル・ファカルティ・ディベロップメント・プログラム(IFDP)」と呼ばれる、MBAの教員向けの1ヶ月間のコースです。

【なぜIESE?何を学びに留学するの?】

次に、IESEのIFDPを僕が留学先に選んだ理由、そして留学の目的についてです。

以前から僕がグロービスを含む「ビジネススクール」というビジネスを見ていてずっと思っていたこと、それは「ビジネススクールの教員には、どのようなcertificate(免許状、証明)がある(べきな)のか?」ということでした。

通常の大学では、大学教授というのは師匠の教授の研究室に入り、そこで研究を積んで論文を書き、それを師匠に認められて教授の資格を得るわけです。つまり、大学教員の人材育成プロセスというのは「徒弟制」で、その学問分野での研鑽の年数と学問的実績が「教授の能力」の証明となります。たまにその分野で大学以外の場所で高い実績を挙げた人が教授に抜擢されるといったこともありますが、基本は内部での教員養成システムがあるわけですね。

ところが、ビジネススクールにはそういった教員養成システムが意味を持ちません。教わる側もそれなりの実業経験のあるビジネスパーソンであることが前提ですから、ビジネスにおける経験・実績がまったくない教授の教えることに価値を感じる人は少ないでしょう。となると、「大学の中で研究を積み、論文を書いて師匠の教授に認められる」ことが教授の資格証明とは到底思えないわけで、それ以外の基準で教授を外部から採用/内部で養成し、評価しなければならないはずです。でも、そういうことが行われている気配は、日本の他のビジネススクールを見る限りでも、あまり感じられません。ビジネススクールの教授を一定期間コンサルファームでインターンシップさせている大学が、どこかにあるでしょうか?聞いたことがないですね。

では、トップクラスの戦略コンサルタントとか成功した起業家とか、とにかくビジネス界での高い実績がある人を教授として呼んでくれば良いのか?確かにそのほうが説得力はありそうです。でも、経歴を見ただけで受講生が圧倒されるようなキャリアのビジネスパーソンというのは、世の中にそんなにたくさんはいませんし、そういう人はそもそも本業ですら引っ張りだこですから、ビジネススクールが一定数かつ継続的に確保するのはとても難しそうです。また、ビジネス上の実績さえあれば良い教授なのかというと、それも違う気がします。というわけで、ビジネススクールというのは教員をどういう判断軸で「教員」と認めるべきなのか?というのが、永らくの疑問だったわけです。

今回僕が留学するIFDPというコースのパンフレットには、そういう僕のこれまでの問題意識にまさに答えてくれそうな説明が書かれていました。曰く:

Is having a Ph.D enough to become a good business school professor? After years of preparation and research, many Ph.D candidates contribute their knowledge and specialization by teaching at the university level. But turining a Ph.D holder into a business school professor is seldom a seamless transition, since few graduate programs adequately prepare their doctoral candidates with the necessary skills that are vital for successful careers in education.

(Ph.Dを持っていることは、ビジネススクールの教授として十分でしょうか?何年もの準備と研究を積めば、多くの人は学部レベルの知識と専門性は教えられるでしょう。しかし、教育の世界でのキャリア構築に必要なスキルを博士課程の研究者に適切に教授するプログラムがあまりにも少ないがゆえに、Ph.Dホルダーがビジネススクールの教授にスムーズに転換することはほとんどありません。)

つまり、僕がGに転職して以来ずっと感じていた疑問は、海外のビジネススクール業界にとっても同じように「問題」となっていたわけですね。

IESEのIFDPは、こうした状況に対してこれからビジネススクールの教授になる人、教授としての能力を高めたいという人たち向けに、1992年に開設された年1回、1ヶ月のコースです。コースの受講者は毎年だいたい20人前後で、日本人の参加者は今回の僕が初めてだそうです。このコースには:

  • Quality Communication in the Classroom(コースデザインやケース開発、講義での効果的なコミュニケーションを盛り上げる手法)
  • Institutional Management(学部長の立場に立って考える、所属教育機関の経営課題とその解決策)
  • Personal Career Planning(教育機関の提供する機能や機会から得られる自身のキャリア開発チャンス)

という3つの軸が設定されていて、パンフレットに紹介されているだけで、

  • 「ケースメソッド教授法」
  • 「ケースライティング」
  • 「コースデザイン」
  • 「グローバルリーダーシップ」
  • 「最新教育ツール」
  • 「ファカルティ・ディベロップメント(講師の育成)」
  • 「セッションの自己分析」
  • 「説得力のあるコミュニケーション」
  • 「知識項目のケースメソッドによる教授法」
  • コーチング・メンタリング」
  • 「大学組織経営」
  • 「応用研究ワークショップ」

などのプログラムが含まれているようです。いわば、1ヶ月間ぶっつづけで朝から晩まで大学院教育に関するセミナーを受け続けるみたいなもんでしょうか。すごいですね。僕の脳みそがついて行けるかどうか心配です(^^;)。

それはともかく、「グロービスの教育システムを定式化し、GGの皆さんがそれを使ってどんどん事業を拡大していける基盤を作る」というミッションを掲げているIMEですが、そこで今後活動していくにあたって、世界トップレベルのビジネススクールを学生としてではなく「教える側」に潜り込んで見てくることによって多くの示唆を得られるのではないかというのが、今回の僕の留学の動機というわけです。僕がネット上で調べた限りでは、こうした教員養成のコースを(公式に)持っているビジネススクールは、世界中でIESEだけでした。

実は、このIFDPというコースの参加資格は「教育に適性があると感じられるPh.Dホルダー」「ボードメンバー、プログラム・ディレクター等、所属機関の経営に責任のある地位であること」といった要件が挙げられています。グロービスのボードメンバーでもなく、Ph.DどころかMBAすら持っていない(笑)僕がどうしてこのコースへの入学を許可されたのか、今もって全く謎なのですが、本来ならそういう職責と肩書きを持つ世界中のビジネススクールの教授たちが集まっているはずなので、そういう人たちやIESEの教授陣とも仲良くなって、いろいろと議論できる関係を作ってみたいと思っています。

こうした機会にお金を出し、推薦状を書いたり業務負荷を肩代わりしたりして応援してくださったGGのすべての皆さんにお礼を申し上げます。今日はまず、留学の動機と留学先の概要でした。これから留学が終わるまで毎日、活動をご報告していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。