ユニオン・フェノサ訪問

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今日はスペイン第3位のエネルギー企業、ユニオン・フェノサの企業内大学(CU)について取材してきました。

マドリッド中心部から4番の地下鉄に乗って、終点の1駅手前「マノテラス」駅まで北上します。駅を出ると回りは日本のちょっと古めの公団アパートみたいなマンションの林立する住宅街。そこを抜けると、幹線道路沿いに黒いガラス張りの3〜4階建てぐらいのビルが見えてきました。ユニオン・フェノサの本社ビルです。

受付で「Tengo una cita con Sra. Virginia Prieto.(ベルヒニア・プリエトさんとアポがあります)」と告げると、パスポートをチェックされてから「そこで待っていて」と英語で言われました。しばらく待つとあまり白人っぽくない、日本人というか東南アジア人のような顔をした女性がゲートの内側に来て「Mr. Kawakami?」と呼んでいます。握手して「Encantado(はじめまして)」とあいさつすると、「スペイン語できるんですか!私は英語もスペイン語もあまりうまくないんですよ」というので、「どこの方ですか?」と聞いたところ、アストリアス(スペイン北部の自治州)の出身、とのことでした。

中の部屋に案内されて、ユニオン・フェノサ企業内大学(UCUF)のディレクターのホセ=アンヘル・フェルナンデス・イサルド氏、リーダーシップ部門担当のカルロス・ゴンサレスサラマンカ氏にお会いしました。失敗したなあと思ったのは、お互い英語はノン・ネイティブではないのに、取材時間を1時間しか取っていなかったことです。普通の取材の半分のスピードでしかしゃべってる内容も理解できないし、質問もできない!

結構いろいろと質問を用意していったのですが、結局1時間半まで引き延ばしてもらったにもかかわらず、細かいところについては質問しきれずに終わってしまいました。でも、要点は聞けたと思うので、以下に少し書いてみます。

【ユニオン・フェノサの企業内大学の歴史】

そもそもユニオン・フェノサがCUを設立したのは、1982年。ユニオン・エレクトリカと、フエルサス・エレクトリカ・デ・ノロエステという2つのエネルギー企業が合併した時でした。この時はCUといっても、実際には2社のエンジニアのオペレーション内容を揃えるという、現場のオペレーション融合が主な目的でした。スペイン企業でCUを設立したのは、同社が初とのことです。

CUの目的が大きく変わったのは、2000年と2002年に中南米のエネルギー会社を買収してからです。スペイン企業の国際化の典型的なパターンとも言えるのですが、言葉が共通する中南米の同業種の会社を買収して進出したところ、それらの会社では言葉よりもマネジメントのスタイルや方向性が大きく異なっていることに気がついたのです。そこで、2000年から現場のエンジニアだけでなく、マネジャーやコーポレート機能のスタッフのビジネス研修にCUのリソースをシフトし、合わせてCUに通常はHRや事業ユニットが持っている人材採用事務局と人材評価機能を統合しました。

つまり、同社のCUというのはこの時から、いわゆる「社員教育」機能以外に、採用や評価といったHRの機能もすべて合わせ、「事業ユニットに対して科学的なHRマネジメントのシステムとツールを提供する」ことをミッションとして掲げるようになったわけです。人材の採用も評価も、最終的にはもちろん事業ユニット側が決定を下すようにはなっているのですが、そのためのプロセスや判断基準などはCUが提供しています。

また、2002年にはもう1つ大きな前進がありました。それは、同社で初めての「CEOと役員向けの研修」を行ったことです。それまでのCUの研修は現場のエンジニアやスタッフが主な対象でしたが、2000年にマネジャー向けのリーダーシップ研修の実施を始め、2002年にはついに経営トップに対してもリーダーシップ研修をするようになりました。この経営トップ向け研修はその後も毎年継続されています。

【リーダーシップ研修の内容】

ここで彼らが言っている「リーダーシップ研修」とはどのようなものなのか、ちょっと説明しておきたいと思います。実は、我々が通常使っている「リーダーシップ」というのとはちょっと意味が違っていて、その内容は「ユニオン・フェノサの価値観(Corporate Values)に関する共通言語の習得」と、「ビジネススキルの修得」という2段階を経て、事業ユニットやコーポレート全体の戦略を考え、動かすための「リーダーとしてのパフォーマンス・ケーパビリティ拡大」という段階に至るようになっています。

このうち、共通言語の取得の部分については、対面ではなくオンラインのプログラムで実施され、集合研修になるのは2段階目からです。2段階目の「スキル」については、「経験から学び、教える」「マネジメントの品質」「顧客サービス」「リーダーシップとイニシアチブ」「創造・変革志向」そして「チームワークとネットワーキング」という6つの領域にわたって、それぞれ「基礎」「応用」「展開」という3段階の集合研修+OJTのプログラムが用意されています。つまり、カリキュラム体系がそもそも「ヒト・モノ・カネ」といった科目別にはなっていないのですね。

そして3段階目は、これらを複合したより総合的なマネジメント能力の開発プログラムと、コーチングやメンタリングなどを合わせたものになっています。

この部分に関しては、実は一昨年から方針をやや変えたとのことでした。それまでは、この3段階目の「リーダーとしてのパフォーマンス」の部分を、IESEやESADE、IEなどのビジネススクールに入ってもらってインハウスでやっていたのですが、2年前から一部をオープン・プログラムへの参加に切り替えるという決断を下したそうです。

その理由として、カルロス氏が挙げていたのは「研修で使う言語を、スペイン語から英語に切り替えていかなければならないと考えている」こと、「外部のマネジメントとのネットワークの中で議論したほうがより客観的な広い視点を得られる」こと、そして「オープン・プログラムでもこちらの求める品質が確保できると考えた」ことの3つでした。

3番目については、オープン・プログラムではあるものの、CUの事務局スタッフがオブザーバで研修に入り、ユニオン・フェノサのマネジメントがどのような発言をしているかとか、プログラムの内容がユニオン・フェノサにとってフィットしているかどうかを確認することにしているとのことです。

【今後のチャレンジ】

残り時間が少なくなってきたので、最後に「UCUFにとっての今後のチャレンジとは何ですか?」と質問してみました。その答えは、僕の予想もしてなかったことでした。

カルロス氏は、「欧州のエネルギー業界はこの数年規制が緩和され、スペインにも他の欧州の巨大エネルギー企業が参入機会をうかがっている。今後うちはどこの会社に買収されるか分からないが、買収される可能性に備えなければならない。どこの会社に買収されても、CUがユニオン・フェノサの重要な資産であり競争力の源泉であると見なされるようにしなければと考えている」と答えたのです。

CUのプログラム・ディレクターの1人に過ぎない彼の口からこんな発言が出てくるとはびっくりでした。日本の人事部担当者から「いつ誰に買収されるか分からないので、人事もそれに備えます」って発言が出てくること自体、想像も付かないですよね。でも、今の欧州の企業では(IESEの加瀬先生もおっしゃっていましたが)事業レベルではなく、企業レベルで「どういう付加価値を付けるのが我々にとってもっとも合理的か?」という議論が、常に行われています。域内で国を超えて企業がM&Aを行い、生き残りと立ち回りの競争をしているのです。また、そこでHRの機能が「買収側の企業にも重要な資産と見なされる」かどうかを考えているなんて、本当にすごいです。日本企業にはない発想だと思いました。

以上、とりあえず取材の概要をかいつまんでお伝えしました。本当はもう少し細かい所も聞いています。もし質問があれば、コメント欄に書いていただければ分かる範囲でお答えします。よろしくお願いします。