メソッド、ケース、コース

朝のグループワーク
昨日はブログを更新できませんでした。夜にOpening Dinnerがあったため、12時過ぎに酔っぱらって帰ってきてからすぐに寝てしまったのです(朝はちゃんと起きていたんですが、ケースを読むのに必死でした)。

4週間もある日程のうち、まだ3日しか終わっていないのですが、後から配布されるケースがあるわあるわ。最初から全部配る、なんていう発想はないみたいです(笑)。また、それぞれのセッションに出てくる教授が皆とても個性的で、話の内容やケースさばきなど、見ていて本当に飽きません。上の写真は、今朝の8時から1時間やっていたケースのスタディーグループの様子です。

この2日間のスケジュールをご紹介すると、以下のような感じです。

6月3日(火):
9:00〜10:15(1限) 「ケース・ライティング」(リュイス・レナルト教授)
10:15〜10:30    コーヒー・ブレイク
10:30〜11:45(2限) 「ケース・ライティング」(リュイス・レナルト教授)
12:00〜13:15(3限) 「ライブラリサービスについての説明」

13:15〜14:30  ランチ

14:30〜15:45(4限) 「ケース以外のティーチングメソッド」(ハビエル・サントマ教授)

6月4日(水)
8:00〜9:00 グループスタディー
9:00〜10:15(1限) 「ケース・メソッド教授法」(カルロス・ガルシアポント教授)

10:15〜10:30    コーヒー・ブレイク

10:30〜11:45(2限) 「ケース・メソッド教授法」(カルロス・ガルシアポント教授)

12:00〜13:15(3限) 「ケース・ライティング」(リュイス・レナルト教授)


13:15〜14:30  ランチ


14:30〜15:45(4限) 「コース・デザイン」(ホアンナ・マイル助教授)

昨日はこれに20:30〜24:00で、「オープニング・ディナー」が付いていました。昨日はとにかく1日が長かったですね。

さて、一昨日のエントリではケースメソッドのガルシアポント教授のことをご紹介しましたが、ケースメソッドについては少し置いておき、今日は昨日から始まった「ケース・ライティング」と「コース・デザイン」のことについて少しご紹介しましょう。

【ケースを書く方法は教授の数だけある】

IFDPの教師風景

ケース・ライティングについては、この1ヶ月の間に8回のセッションを使って教わることになっています。最初の3セッションはケース・ライティングについてのレクチャー、そして2セッションでリュイス・レナルト(Lluis Renart)教授の書いたマーケティングのケースを見ながらその取材方法や構成について具体的に聞き、さらにそれ以外の領域の教授(IT、オペレーション、戦略マネジメント)からもそれぞれのケース・ライティングの特色について学びます。そして最後の1回のセッションでティーチングノートの書き方についてのレクチャーで終わりです。

これだけ聞くとただひたすらレクチャーを聴いているように思えますが、それで済むわけがないのがIFDPです。このブログの初めのほうでも書きましたが、プレコースの課題に各自ニュービジネスのケースのドラフトを書いてきています。その中でそれなりにネタが良かった受講生は、そのケースをブラッシュアップして担当教授に完成まで見てもらえることになっています。

また、自分で書けるケース素材が見つからなかった受講生に対しては、何とレナルト教授がスペインの企業にアポを取ってくれていて、取材に行って話を聞き、ケースを書くチャンスももらえます。というか、とにかく「ごちゃごちゃ言わずに1ヶ月で1本は書け」と、こういうことですね。

僕はというと、取材に行っても英語が全部ちゃんと聞き取れるかどうか不安で、かつ事前提出したケースがレナルト教授から「ファーストドラフトにしてはよくできてる」と褒められた(?)ので、このケースを拡張してとりあえず1本書こうと思っています。

レナルト教授のレクチャーは、彼がこれまでにケースを書いた時の面白いエピソードを交えながら、ケース・ライティングのコツをしゃべるというもので、僕が以前に経産省の外郭団体のセミナーで聞いたINSEADの教授のケース・ライティングに関するセミナーよりも、より具体的で実践的だなあと思いました。その中で、なるほどと思った警句をいくつか引用しておきます。

  • あらゆる教授が、自分のケース・ライティングの方法論を持っている
  • ケースライターがケースの問題についてある程度の深さまで理解していなければ、良いケースは絶対に書けない
  • 取材するときは「すべての石を裏返せ」。可能な限りすべての登場人物にインタビューし、思いつく限りの情報を集めてからケースを書くこと
  • ケース・ライティングは決して予定通りにまっすぐにはいかない。ハプニングやアクシデントはつきもの
  • 1時間インタビューしたら、オフィスに帰ってきてから取材内容を必ず2時間以上は分析すること
  • ケースに書く情報は分析しきってはいけない。学生たちが予習で分析する余地が必ず残っているようにする
  • IESEでは、「5回以上使ってみた後でなければ、新しいケースを使ってはいけない」というジョークがある(実際のクラスで使う前に徹底的にブラッシュアップすること)

僕がケースを書くときに当たり前のように思っていたけれども改めて言われると「確かにそうだなあ」と思うこともありましたし、また分かっちゃいるけれどやってないよねえ、という「耳の痛い」話もありました。

レクチャーの最中にも参加者が自由に質問できるのですが、僕は昨日と今日とで2回質問しました。1つめは「ケーススタディーを使うと、情報の整理と分析・意思決定は確かにできるようになるかもしれないが、そもそもどういう情報をどうやって集めてくれば良いかといったことや、意思決定をした後に起こるさまざまな不測の事態にどう対処するかといったスキルは身につかないのではないか?」、2つめは「ケースを公開して販売すると教授と大学のreputationを高めると言うが、逆に公開しないことのメリットはあるか?」というものです。

1つめの質問に対するレナルト教授の返事は「価値のある質問。それがケースメソッドの限界だ。だから情報収集や計画の実行・コントロールを学習させるのにはケースメソッドはむいていないということを理解しておく必要がある」、もう1つの質問に対する答えは「私はIESEの教授で1人だけ、自分のケースを絶対にIESEに公開しない(注:IESEは他の欧州のBSのようにECCH(European Case Clearing House)にはケースを登録せず、独自のケース販売システムを持っています)と言っている人がいる。彼は、IESEでケースを公開すると他の大学レベルで自分のケースを読んできた学生がクラス内で自分は知っているといった態度を取ることがあるので、公開しないと言っていた。しかし、私はケースを公開しないことに特段メリットがあるとは思っていない」というものでした。

なるほどな、とは思いましたが、その後のランチの時に南アフリカから来たマーケティングの教授としゃべっていたら、「南アフリカでは学生がアフリカに関するケースをことのほか好むので、欧米の企業や市場を取り上げたケースを使うことができない。でもアフリカのビジネスに関するケースは絶対数が少ないので、アフリカのビジネスに関する良質なケースを書くことが私たち教授にとっては大きな経済的インセンティブになる」と話していました。それを聞いて、結局学生(顧客)がどんなケースを求めるのかが、公開か非公開かの判断には重要なのだと感じました。

その意味で言うと、日本では学生も企業も「そのBSのオリジナルケース」を使って教わることになぜかとても価値を感じる傾向があるように思います。だから、少なくとも日本語でBSをやっている限りは、Gはオリジナルケースを公開すべきではないのでしょう。しかし、グローバルレベルで見たときには、米国のBSも欧州のBSも、他の大学のケースであっても良いケースがあればそれを躊躇なく使う習慣があるようですし、ティーチングノート付きの良いケースを作った教授や学校の評価は高まるとのことです。したがって、Gのオリジナルケースも、英語版はどんどん作って公開していくべきなのかもしれません。

【コースの品質に責任を持つのは講師ではなく「事務局」】

もう1つご紹介したいのが、今日から始まった「コース・デザイン」というセッションです。ホアンナ・マイル(Johanna Mair)という女性助教授が担当なのですが、めちゃくちゃ背が高くて細くてクモのように手足の長い、でもものすごくパワフルなアントレプレナーシップの教授です。

このセッションはリーディング一切なしの完全ワークショップとなっていて、1回目のクラスはコース・デザインの要素とは何か、「良いコース」とは何によって決まるか、といった概論を、インタラクティブ・レクチャー方式で話し合いました。来週末の2回目以降のクラスから、実際のコースアウトラインを設計して、それをクラス内でたたき合いながら4つぐらいのグループごとにコースを1本開発し、20日の午後一杯かけて発表会をするという、これまた大変なセッションです。

教授は「なるべく自分の担当あるは関心領域が同じ人と集まってチームを作ってもらいます」と言っていたのですが、僕は専門のマーケティングよりは、もう少し別のテーマのコースデザインにクビを突っ込みたいと思いました。今日の帰り道、ハンガリーの女性教授(専門はインターナショナル・ビジネス)とたまたま一緒になり、「このクラスってあまりリーダーシップやクロスカルチャー系のことをやっている人がいませんね」「あ、実は私、国際企業のリーダーシップも講義しているので、そのテーマやりたいですね」みたいな話になったので、彼女と組んで「異文化組織のマネジメント」みたいなコースのデザインをやってみようかと考えています。

それはともかく、その「コース・デザイン」のセッションで、「コースは何の影響で変えなければならなくなるか?」「コース・アウトラインにはどのような要素が必要か?」といった、最近Gの中でもホットなテーマについての議論になりました。

そのときにマイル助教授が話していたエピソードの中に興味深いものがあったので、ちょっとご紹介しておきます。コース・デザインを調整しなければならなくなる影響の1つとして「(大学)事務局の指示」という項目があったのですが、彼女は「IESEも新しいコースを開設したばかりの時には、どのコマでどんなLearning Objective(学習事項)をどんなPedagogy(教育法)、Text/Case(教材)を使って教え、Grading(成績評価の基準)は何かといったCourse Outlineをがっちりと決められて、各パートを担当する教授に渡されます。だから、1年目は教授にはほとんど自由度がありません。しかしそこである程度のパフォーマンス(満足度)を出せば、2年目以降は教授の自由度がどんどん増すようになっているんです」と話していました。

逆に言えば、特に新しいコースであればあるほど、プログラム全体の設計とパフォーマンス(品質)に責任を持つのは「事務局」であり、個々の「教授」ではないというのが、IESEの考え方だとも言えます。あれほどのレベルの教授を揃えていながら、最初のコースデザインは一切教授陣の自由にさせず、プログラムディレクターが決めるというところが徹底されているのが、IESEという組織の凄いところなのだろうなあと思ったりした次第です。

というわけで、今日はこんなところで。ではまた明日。