教授の報酬の決まり方

クラスの様子今日(8日)は日曜日で、IFDPの受講者たちもアフリカやフィリピン、東欧などカソリック・ラテン系の国から来た人たちは、皆11時からの教会のミサに行ってしまいました。北欧などのプロテスタント系の国から来た人たちやインドの人たちは「観光に行くよ。教会なんか行かないって」と言って出かけてしまいましたが(笑)、僕は今日は夕方18時半からスペインのお芝居を観に行こうかと思っているので、それまで明日の予習です。

メンバーの1人が、Facebookにコミュニティを立ち上げたのですが、なぜだかそこが写真共有スペースと化していて(笑)、いろいろな人がこれまでに撮ったクラスの写真や土曜日の観光の写真などをアップしています。上の写真はその中の1枚。ちょうど僕の真後ろにいる受講生が撮ったので、僕の後ろ姿が真ん中に写っていますね。

さて、GMSの君島さんからもらっていた「MBAスクールの教授の給料って、国際的にはどうやって決まるものなのか?」というテーマですが、これまでにも雑談の中で、各国からの参加者に「あなたの給料ってどうやって決まっているの?」と尋ねています。

国や文化によってはなかなかtouchyな話だと思うので、たまたま話題がそっちに転がったときにそれとなく聞くしかないんですが、これまでに聞いた限りでは、あまり参考になる話はありませんでした。これまでに聞いた意見としては;

「定額。だいたいPh.Dポスドク、アシスタント、そして教授というランクがあるでしょう。それに応じて決まっているね」(南アフリカ
「基本は定額だけれど、受け持った授業の時間数が加味される」(コンゴ
「報酬についてそれほど揉めるわけではないけれど、毎年研究と教育の両方で何をやるかということは、報告しなければならないわね」(スウェーデン
「この金額以下では嫌だ、という額を提示して、それを向こう(大学)が受け入れるかどうかで決まるよ」(アルメニア
「私立大学のほうが高いね。公立大学の場合は、報酬額がすべて公開されるので、もっと高い成果を出そうと思う教授にとっては公立大学に行くメリットがないんだよね」(フィリピン)
「私の国ではすべての大学は国の管轄下にあるから、大学の教員の年俸は勤務年数などに応じてほとんど同じよ」(ハンガリー

といったものばかりで、企業研修をたくさんこなしている人もそれほどおらず、正直さっぱり参考にならないなあという印象です。

こうして情報収集をしてみると、やはり参考にすべきはIESEのような気がします。というのも、IESEの収益構造はグロービスとそっくりで、売上の70%が企業向けの研修によって生み出されており、残りの30%のうち、MBAよりもEMBA(ノン・ディグリー)のほうが売上は多い、という話を(正確かどうかは分かりませんが)ある参加者から聞きました。こうした収益構造を支えるため、昨日のエントリーでも書いたように、グロービス同様、エグゼクティブや企業研修でうまく講義するためのノウハウを、領域ごとの教授同士が伝授する仕組みができあがっています。

IFDPの参加者に聞いていても、やはり企業研修をこれだけ集められるビジネススクールというのは彼らからすると「非常にうらやましい」ようで、グロービスの売上の3分の2が企業研修であるという話をすると「それはすごいですね」と誰からも言われます。また、僕自身も「ノン・ディグリーのエグゼクティブコースをたくさんこなしている」と言うと、それだけでみんなの見る目が変わります(笑)。

【教育活動の「歩合給」が大きいIESEの報酬システム】

となると、知りたいのはIESEの教授の報酬システムです。これまでにも、いくつかその情報の片鱗は聞いています。

まずティーチング活動についてですが、マドリッドで加瀬先生と話をしていたところ、「年俸は一定の担当コース数などをもとに一定額決められているが、当初決めた以上のコースを(企業研修などで)担当した場合には、1回(75分)やるごとに900ユーロ(約14万円)がもらえることになっている」との証言を得ました。つまり、講師活動については固定年俸制+キャップオーバー手当、というかたちの報酬方式になっているようです。

また、ケースなどのコンテンツ開発活動については、レナルト教授がケースライティングのクラスで「IESEでは、教授が書いたケースはすべてpublishingのサインをした後はIESEのクリアリングハウスに集められることになっている。これはルールであり、それによって教授は報酬をもらうわけではない。またそのケースが外部に売れても、その売り上げは教授には還元されない。ただ、執筆したケースがEuropean Case Awardなどを受賞すれば、IESEが多少の報奨金をくれるけれどね」と言っていました。

ただ、ここIESEでは同じコンテンツ開発でも、どうも「ケースの執筆」という活動と、「プログラム(コース)開発」という活動は明確に分かれている気配を感じています。したがい、教授がケースを書くのは自由だが、それをどのようにプログラムにパッケージングして売る仕組みになっているのか、またIESE内部で「よく売れる」ケースを書いた場合の報酬額はどのように変化するのか、といったことはまだ判明していません。来週以降は、このあたりの内部のメカニズムについて、もう少し切り込んでいきたいと思っています。

ただ、先週金曜日の「Institutional Management」のセッションで、元Deanのカルロス・カバジェ教授が「高い年俸の教授を雇うのと、安い年俸の教授を雇うのと、どちらが良いか?答えは、どちらも『良いビジネススクールを作るのには役に立たない』だ。年俸の高い教授も、安い教授も、良いビジネススクールと関係ない。大事なことは『ビジネススクールに強くコミットしてくれる教授』を雇うことだ」と話していました。カギはここにありそうな気がします。

もう1つ、これに関連してですが、加瀬先生が言っていたことで、こんな話がありました。「日本の大学は今任期制を取り始めているが、多くの大学は3年の任期制ということを言っている。だが、あれは非常によくない制度だと思う。大学教授の仕事というのは、探し始めてから1年ぐらいしないと見つからないものなので、自分がクビになるということは少なくとも1年以上前に知っておきたいのが教授の本音。となると、3年の任期では1年目はその学校のやり方に慣れるので必死、2年目は軌道に乗ってきて成果が出せるようになるが、3年目は次の職探しで頭がいっぱいになって仕事が手に付かなくなってしまう。となると、3年任期制で実際にフルに働けるのは1年だけということになる。あれはとても非効率だと思う」

例えば、我々社員のように「雇用の保障」がされたうえで、当該ポストの任期が3年ということならまだ分かるのですが、大学教授の仕事は特に年単位のサイクルで動くプログラムの場合、慣れるのだけで1〜2年かかるわけですから、やはり評価/報酬のサイクルを回すという点からすれば、ある程度の長期雇用を前提としなければ成り立たない気がします。

となると、ある程度長期の雇用を保障する代わりに固定給部分を少なめにして、教育や研究活動に対する成果給の部分を大きくするのが合理的ということになりますが、とはいえあまりにも極端な「成果給」型報酬体系を取ると、それはそれで長期的なコミットメントを阻害しそうな気もします。結局教授というポストの人にそれぞれのビジネススクールが何を求めるのか、ということを明確にして雇うことが必要なのでしょう。今のところ、「教授の報酬」というテーマで感じているのはそんなことです。