IESEの組織構造とプログラム・ディレクターの役割

今日(といっても昨日ですが)は、朝から「ファカルティ・ディベロップメント」「Persuasive Communication(説得力のあるコミュニケーション)」「オペレーション・マネジメント」「リーダーシップ」という4つのクラスが立て続けにあり、どれもリーディングの量がハンパではない(特に後半2つはケース)ので、結構死にそうでした。

「オペレーション・マネジメント」のクラスでは、グロービスでもGMSの「サービス・マネジメント」のクラスで使われているHBSの名ケース「ベニハナ・オブ・トウキョウ」が登場しました。サービスにおけるオペレーションとは何かを学ぶケースなのですが、担当するドイツ人のマーク・サション(Marc Sachon)教授は、ドイツ人っぽい超真面目なしゃべりとケースメソッドをやるときの強引とも言える大げさなパフォーマンスとのギャップが面白い、すごい先生でした。

この「オペレーション・マネジメント」のコースは、単にオペレーション・マネジメントを教えますよというだけではなくて、オペレーション・マネジメントを教えてもらいながら「オペレーション・マネジメントをケースメソッドによって教えるとはどういうことか」「ケースメソッドの議論をリードする時にどんなところに気をつければ良いか」といったことをクラス中で解説してくれ、さらに3回目のセッションではセション教授のオリジナルケース「Aldi」を題材に、IFDPの参加者がケースメソッドをやってそれをみんなで議論するというユニークなコースです。(実演する人には、個人的にメンタリングのフィードバックもします、とシラバスに書いてありました)

教授のクラスを見てからケースメソッドをやるのに手を挙げるかどうか考えようと思っていたのですが、クラス冒頭でそのことをセション教授が話して、流れがよく分からなかったのですがなぜか瞬時にイタリア人のLuigiに参加者セッションの人が決まってしまいました。ちょっと残念。

【IESEのプログラム・ディレクターにインタビュー】

今日は、以前から加瀬先生に会うことを勧められていた、IESEのプログラム・ディレクターのフェルナンド・クラリアナ氏(Fernando Clariana)からメールが来て、「今日の16時から17時の間であれば時間があるよ」と言われたので、4つのセッションの終わった後に彼に会いに行ってきました。

IFDPに参加しているだけではうかがい知れない、IESEの法人営業チーム(GOLみたいな人たち)の組織と仕組みを聞いてきたので、以下にちょっとご紹介したいと思います。

まず、話を聞いていて驚いたのが、組織の構造が(2008年3月までの)グロービスとそっくりということです。聞けば聞くほどあまりに似ていたので、インタビューの内容にあまり自分自身驚きがなく、少しがっかりでした。でも、一応説明します。

IESEの組織は大きく2つに分かれています。1つはファカルティ部門(Faculty Department)で、ここは専門分野ごとにフルタイムの教授、助教授、パートタイムの外部講師、客員教授などが「領域(Department)」グループを作っており、領域には以下の11があります:

  • 経営上の意思決定(Managerial Decision-making and Economics)
  • 会計・コントロール(Accounting and Control)
  • マーケティング(Marketing)
  • 人的組織管理(Managing People in Organizations)
  • 製造・技術・オペレーション(Production, Technology and Operations Management)
  • ファイナンス(Financial Management)
  • 戦略マネジメント(Strategic Management)
  • 経済学(Economics)
  • ビジネス倫理(Business Ethics)
  • アントレプレナーシップ(Entrepreneurship)
  • 情報システム(Information Systems)

IESEのファカルティ・ディレクトリを見ていると、複数の領域を掛け持ちしている教授もいるようですし、戦略のようにフルタイムで20人以上の大部隊を擁する領域から、情報システムのように全部あわせて数人しかいない領域までいろいろとあるみたいですが、今日の話はこことは関係ないのでファカルティの方はこれ以上は触れません。

ファカルティ組織と反対側にあるのが、プログラム部門(Program Department:PD)です。ここがグロービスで言う「GOL」にあたると思われる部門ですが、IESEの場合はGMSとGOLのような区別はあまりなく、スクールとカスタムの企業研修すべてのプログラムをPDが管轄しています。

IESEのPDが持っているプログラムには、大きく分けて以下の4種類があります。

  • ディグリー(単位認定)プログラム…2年制のフルタイムMBA、半年のEMBA(エグゼクティブ)、半年のGEMBA(グローバル・エグゼクティブMBA)などのプログラムです
  • ノン・ディグリー・プログラム…AMP(Advanced Management  Programme)、 PMD(Program for Management Development)などの公開プログラム
  • カスタム…いわゆる個々の企業向けのカスタマイズド・プログラム。担当は「自動車・製造・エネルギー」、「通信・ファイナンス」、「消費者対応・ブランド」、「サービス」という4つの業界ごとに分かれているとのこと
  • ショートフォーカス…「インド」「中国」「テクノロジー」「グローバル・リーダーシップ」「規制対応」など、特定のテーマで開かれる2〜3日の公開プログラム

PDの担当するプログラムの種類は、特に決まっていないようです。1人で特定のプログラムのセールスに付きっきりになることもあるし、複数のプログラムのディレクターを掛け持ちすることもあります。ちなみに今日話を聞いたFernando Clariana氏は、公開プログラムであるPMDのセールスと、「自動車・製造・エネルギー」業界の企業のカスタムプログラムのセールスとマーケティングに責任を負っている、とのことでした。

このあたりまでならグロービスとそれほど変わらないのですが、興味深かったのはプログラム部門とファカルティ部門の責任範囲の線引きです。IESEでは、ディグリー、公開、カスタムまであらゆるプログラムに以下の4つの要素があるとされています。

  1. コンテンツ(Academic Contents)
  2. 学習プロセス(Learning Process)
  3. (解決すべき)実際の問題(Real-life Problems)
  4. 社会的なアクティビティ(Social Activities)

1、2は分かりますね。要するにそのプログラムの中で「何を、どう」学ぶかということです。実は、この部分はPDの組織は責任を持っていません。責任を持つのはファカルティ部門からプログラムごとに配置される「アカデミック・ディレクター(AD)」と呼ばれる教授です。ADは領域を横断してプログラムの内容とその順番についての設計と調整の全責任を負います。

だから、「○○プログラムのADを務めた」というのは、IESEの教授にとっては「この人はビジネスのほぼ全領域のことが一通り理解していて、顧客に対する包括的なソリューションにまでその知識をまとめ上げられる教授です」という、一種のステータスになります。たとえば、今日オペレーションマネジメントを講義してくれたサション教授のプロフィールには、「(IESEのフラグシップである)AMPのアカデミック・共同ディレクターを務めた」ということが、誇らしげに書いてあります。

ちなみに、ADはプログラム実施中も(自分のセッションがなくても)必ずプログラムに常駐していなければなりません。毎日、1日のプログラムが終わったあとに「赤帯セッション(Red Threads)」と呼ばれる、スケジュール表の一番下に赤色で表示された15〜20分のセッションが設定されているのですが、ADは毎日そのセッションに立ち、受講者たちに「今日のセッションで皆さんにとって最も学びの大きかったことはなんですか?」といったラップアップのセッションをしなければならないのです。プログラムの「作りっぱなし」は許されない、ということなんですね。

3の「実際の問題」というのは、要するにグロービスで言う、研修やプログラムなどによって解決を図る「人材育成課題」のことですね。この人材育成課題をどのように調べ上げて把握するかは、教授ではなくてプログラム・ディレクターの役目です。カスタマイズドの場合は、顧客企業とどれだけ密に議論し、この部分を握れるかがPDのポイントになります。

4の「社会的なアクティビティ」というのは、プログラム自体をいつどこで、どのような環境のもとに、どんなアクティビティと一緒に提供するかという、ロジスティックス全部を指します。ここがPDに対する評価の大きな部分を占めます。どれだけ良いファシリティーを手配できるか、セッションとセッションの間のコーヒーブレイクや食事、またセッション後のパーティーや提供する宿泊施設などで、受講者にどれだけ快適さを感じてもらえるかといったことが、PDの責任になります。

PDはしたがって、「プログラムのセールス・マーケティング」以外に、「ファシリティや参加者、講師などとのリレーション」「ロジスティックス」「講師リソースの確保」という、全部で4つの責任を持っています。しかも、顧客企業に対してはその企業の事業上の課題、そこから導かれる人材育成課題までを明らかにし、顧客企業及びアカデミック・ディレクターとしっかり握らなければならないので、かなりの頭脳労働でもあります。フェルナンド氏曰く、「だから、PDはMBA以上の学歴を持ち、かつ戦略コンサルファームや事業会社などで実際の企業経営にも多少タッチしたことがある人でないとなれないんです」とのことでした。ちなみに、フェルナンド氏自身も欧州のATカーニーにてシニア・マネジャーまで務めた経歴の持ち主です。

本当は、これ以外にPDに対する研修プログラムはあるのかとか、カスタムプログラムのプライシングはどうやって決めるのとか、いろいろと聞きたいことがあったのですが、アポをいただいていた1時間のタイムリミットが来た瞬間に彼の机の上の電話がなり、「香港のスタッフとの打合せ時間なんだ。今日はこれで」と、追い出されてしまいました(笑)。

バルセロナにいる間に、もう一度会う時間を持てるかどうか分かりませんが、もう少し調べられるかどうかトライしてみたいと思います。今日はこんなところで。