MBAスクールとお国柄

サイクリングツアー
今週の週末は、バルセロナは天気が悪いです。土曜日はまだ多少晴れていましたが、今日(日曜日)はずっと曇りで気温も20度前後。金曜日にバルセロナ中心部を自転車でツアーした時にはとても晴れていて「夏が来たなあ」という感じだったのですが。ツアーガイドのジルも「今年のバルセロナの天気はおかしい。いつもなら6月は雨も少ないのに」と、首をかしげていました。まあ、僕にとっては観光にも行かず、部屋にこもりきりでケースを読んだりブログを書いたりしているので、あまり関係ないですが…。

さて、IFDPに来ていろいろな国のビジネススクールの教授と話をするのですが、最近は「あなたの国ではMBAホルダーというのはどんな会社にどんな待遇で就職できるの?」と質問してまわっています。ビジネススクールという産業がどういうプライシングでどんなプログラムを提供するかを決めるもっとも大きな要因は、この「卒業生の就職先とそこでの人材ニーズ」だからです。

いろいろな国のいろいろな事情があり、なかなか面白いのですが、ここでは最近聞いた対照的な2つの国の話を紹介してみたいと思います。

南アフリカMBAホルダーの天国?】

今回のIFDP2008には、アフリカからの参加者がかなりたくさん(33人中10人)もいるのですが、その中でも南アフリカからはケニアと同じ3人の参加者がいる、アフリカ地域最大のグループです。南アフリカからといっても、肌の黒い人は1人だけで、実は2人は白人です。

白人の1人、Jako(ジャコ)というヨハネスブルクから来たファイナンスの教授(上の写真の左から2人目)とは、ケースのグループワークも一緒で(たぶん歳も近いことから)食事にも時々一緒に行き、いろいろと仲良くしてもらっています。先日、彼に南アフリカMBA事情を聞いてみたところ、次のような返事が返ってきました。

  • MBAスクールはたいだいアフリカ全体で100校近く。南アフリカにはAMBA、AACSBの認証を受けているビジネススクールが50校程度存在する(すごい数!)
  • MBA(2年生フルタイム)の学費は、1万米ドル(約100万円)程度。クラスはほとんど英語、時々アフリカーンス語
  • 生活費は安く、食べ物はおいしく、気候はよい。ステイするには最高の場所
  • MBAホルダーに対する需要は強い。卒業生には、一般の事業会社のマネジャー職の機会のほか、マッキンゼーなどの戦略ファームへの就職機会もある
  • マネジャーの初任給は、企業にもよるがだいたい8〜10万米ドル。なので、MBAスクールでMBAの資格を取ることは、学生にとっては十分リターンする投資
  • Ph.Dを取っても取らなくても、Master以上であればビジネススクールの教授になれる。特に黒人には差別是正制度(Affirmative Action)があるため、教授登用の基準は緩い
  • 自分はPh.Dまで南アフリカの大学で取ったが、教授や大学は非常に親身で、欧州への留学には積極的。IESEでIFDPを受けたいと言ったら「ぜひ行ってきて、そこで教わった内容をここでみんなに教えてくれ」と言われた

南アフリカでどうしてそんなにMBAホルダーが必要なの?と思ったのですが、ちょっと調べてみたら南アフリカってアフリカ大陸のGDPの4割を占める経済大国で、ナイジェリアやケニアなどのアフリカ諸国には、金融/保険、インフラ、食品、広告、レジャー、不動産、建設などあらゆる南ア企業が進出しています。つまり、アフリカという広大な後背地を持っていて、MBA的なコントローラーがたくさん必要なわけですね。

唯一の問題といえば、言語。これまで南アフリカオランダ語の方言である「アフリカーンス語」が公用語でした。でも、最近はアフリカーンス語をしゃべる人はかなり減ってきていて、英語でも全然通じてしまうそうです。また、よく頭に浮かぶのは治安の悪さですが、ヨハネスブルグ中心部の特定地域以外はあまり問題ではないそうで、ケープタウンなどはまったく安全とのこと。

「(アパルトヘイト政策が終わりアフリカ大陸の他地域にアクセスが容易になったことで)近年巨大な経済的後背地を抱えるようになった」「企業の運営形式は欧米型であり、したがってビジネスコントローラとしてのMBAホルダーの需要が大きい」「でも距離的には欧州、米国のどちらからも遠い(だから欧米の教授はあまり教えに来ない)」「これまで言語は英語じゃなかった(と思われていた)」といったところが、南アフリカMBAホルダーの需要が大きいのにビジネススクールの供給が追いつかないほどの市場を生み出しているということのようです。

【ロシア:急激に発展しているものの人材市場は「日本そっくり」】

同じように東欧・中央アジアという、経済的に遅れている(が、これから開発が進みそうな)広大なエリアへのアクセス拠点でありながら、なぜかビジネススクール産業は思わしくないのがロシアです。

IFDP2008にはモスクワの同じ大学からの女性の参加者が2人いますが、マーケティングが専門の1人のEkaterina(エカテリーナ、上の写真左から5人目)という女性はまだ多少発言するのですが、特に経済?が専門のYulia(ユリア、同左から3人目)という女性はこれまでまったく発言せず、いつも2人でヒソヒソロシア語でしゃべっていて、結構不気味な感じです。このため、2人のそれぞれとランチの時に隣に座っていろいろと聞いてみました。その話をまとめると以下のような感じです。

  • ビジネススクールはたくさんあるが、たいていは既存の大学の付設校。このため、アカデミズムの影響が強い。ちなみに彼女たちの大学は、既存の学部からは切り離して独立させたビジネススクールを設立しようとしているとのこと。
  • MBAの学費は1〜2万米ドル(約150万円)程度。講義はロシア語と英語の両方で行われているが、ロシア語の割合が多い
  • MBAホルダーに対する需要は強くない。グローバル企業のニーズはあるが、ロシアの国内企業はMBAホルダーを「転職しやすい」といって嫌うため
  • たいていのMBA学生は卒業したら海外に行って職を持つか、外資系企業に就職する。国内企業に行く学生はあまりいない
  • ビジネススクールの教授になるためにPh.Dを持っている必要はないが、実際には(アカデミックの影響があり)Ph.Dを取らないとなれないと思う。ファカルティは国外の教授はあまりおらず、海外のビジネススクールMBAを取ったロシア人教授が中心

総じて、ビジネススクールの数はたくさんあるけれど市場は大きくない、1つの学校にせいぜい30〜40人が良いところ、とのことでした。一番大きな要因は、ロシア企業の日本企業そっくりな閉鎖性のようです。なので、彼女たちにグロービスの企業研修プログラムの典型的なパターンを紹介してあげたところ、ものすごく興味を示していました。

このように、一口にMBAといってもそのお国の企業の人事政策とか使われている言語環境、そして生活水準などによってずいぶんと違ってくるのだなあということがよく分かりました。もちろん、それ以外にも教育機関に対する国家の規制などもいろいろ影響するのでしょうが、やはりビジネススクールにとって最も大きな影響を与えるのは、卒業生をどれだけ高給・好待遇で雇用しようとする企業があるかということだと痛感します。

この点で言うと、我々はどうなんでしょうか。卒業生を日本、または世界の企業に認めてもらえるようなクオリティに育てているのか?グローバル化しようとする中でそこが今後問われてくるでしょうし、またそれを起点に考え抜くことが大事なのではないかと、世界中からの参加者のお国話を聞きながら感じた次第です。