オペレーション!オペレーション!

「レゴゲーム」のルール説明
今日は午前中の最初のコマに授業がなかったのですが、その代わりにランチの後、2時半過ぎから6時まで、マーク・サション教授による「オペレーション・マネジメント」の特別講義がありました。オペレーション・マネジメント、ときくと「うわあ難しそう/地味そう…」と思う人が大半でしょうが、この講義(というかシミュレーションゲーム)はものすごく面白かったので、写真も入れながら克明にお伝えしたいと思います。

特別講義の題名は「Lego Game」。そう、あの「レゴ」を使ったゲームでオペレーションを学ぼうというものです。最初に、上の写真のようにまず全員が階段教室に集められて、ルール説明です。

まず最初に「2つの企業が、欧州地域のための工場をそれぞれ持っている」という前提で、「パリ」と「ベルリン」という2チームの、それぞれ以下の役割のアサインとそれぞれのやるべきことが発表されます(役割はすべてチームに1名ずつ)。

  • 「社長」…ボス。マネジメントチームのメンバーを統率し、会議を開催し、結論をまとめるのが役割。
  • 「顧客」…一定の時間(最初は15秒)ごとにコイン2枚を投げて必要な商品を決め、工場に対してその商品を要求する。商品をすぐに受け取れないと、社長にクレームを付ける役割(笑)。
  • 労働者その1「プランナー」…工場で働く労働者。目の前にある「赤」「青」「黄」の3色のデュプロ(レゴの大きなやつです)のブロックを、与えられた順番通りに箱から取り出して並べ、「成形」ラインに送る。
  • 労働者その2「射出成形工程」…プランナーから渡されたデュプロのブロックと同じ色のレゴでできた「金型」にデュプロをはめ込み、かどに同色のレゴブロックを1つつける。金型は1回に1種類しか机の上におけず、違う色のデュプロをはめ込むためには少し離れたところにある別の色の金型と今持っている金型を交換しに行かなければならない。
  • 労働者その3「組み立て工程」…成形工程から渡されたデュプロの上に、3種類の色それぞれに決められた通りのレゴブロックを組み付ける。1つあたり4個ぐらいのブロックを組み付けなければならず、結構めんどくさい。
  • 労働者その4「焼成工程」…組み立て工程から渡されたブロックを「炉」と書かれた紙の上に並べて、8個並んだらストップウオッチで80秒「焼いて」から隣の「品質検査」の工程に送る。
  • 労働者その5「品質検査工程」…レゴがきちんとルール通り各色のデュプロの上に組み付けられているか、目視でチェックする。組み付け方を間違えているブロックは、不良品として弾く。また、ブロックを5個検査するたびにさいころを振り、「1」の目が出たら「不良品」としてそのブロックも弾きます。品質検査が終わったら、デュプロの一番下についているレゴブロック(「成形」工程で最初に組み付けられたもの)を取り外して「倉庫」に渡し、それ以外のブロックはすべて捨てます(捨てたブロックはまた上流工程に戻されます)。
  • 労働者その6「倉庫」…品質検査が終わったブロックを在庫して、顧客が「○色のブロックをくれ」と言ったらすぐにそれを渡し、シートに出荷実績をチェック。在庫がないときにはシートに「受注残」のチェックをし、商品が入庫したらそれを顧客に渡してバックオーダーも消す。

以上の8人以外の参加者は「マネジャー」となり、1人1つストップウオッチを渡されて、2チームに分かれて社長の下に集まります。これで準備は完了です。教授が「スタート!」と笛を吹いてから「止め!」と笛を吹くまでに、どれだけのブロックを顧客に渡し、どれだけのバックオーダー、仕掛かり在庫を残したかで、「生産性」を測ります。

「労働者」役の6人は、自分の与えられた仕事をできるだけ早くこなすことのみに専念し、隣の労働者と協力しようとかラインをどう改善すればいいかとか(笑)、一切考えてはいけないことになっています。一方、「マネジャー」役になった残りの参加者は、ラインを観察してどうやったらラインをもっと効率化できるか話し合い、社長にラインの改善策を提言します。

社長は1ターン終わるたびにマネジャーを集めて改善策を議論させ、次のターンには労働者にその改善策を伝えて実行させます。ただし、改善案は1ターンごとに2つまでしか実行できません。これを4ターン繰り返す、というゲームです。ちなみに、僕は「ベルリン」チームの倉庫管理の労働者に指名されました。「世界で一番モチベーションの上がらない」職業になり(笑)、みんなの様子を観察できることになりました。

【マネジャーは大紛糾・・・労働者は「カイゼン」を目指す】

生産ライン、ただいま全力で稼働中「労働者」は全員1室に集められてもう一度ブロックのオペレーションを教えてもらったうえで、「工場」に社長とマネジャーたちを招き入れ、いよいよ1ターン目の生産開始です。笛が鳴ると同時にブロックのラインが動き始めます。

見ていると、組み立てなどとても忙しそうな工程と、焼成や倉庫など(笑)超ヒマな工程と、労働者の様子もさまざまです。1ターン目が終わり、労働者は別部屋に移されて社長とマネジャーたちが議論を開始しました。

僕は「労働者」だったのでミネラルウォーターを飲みながらマネジャーたちが結論を出すまでのんびりしている役だったのですが、労働者役もみんなビジネススクールの教授たちだけあって、「いったいどうやったらラインの生産性を改善できるか」の議論が始まりました(笑)。でも、議論は「隣の工程の仕事が忙しそうだから助けてあげればいいのかな」とかそういうレベルで、あまりクリエイティブではありません(笑)。社長の指示があるまで業務内容を変えてはいけないことになっているので、しかたないですね。

マネジャーのチームはというと、侃々諤々の議論を繰り広げていたようです。2ターン目になって「工場」に戻ると、「プランナーは成形工程も手伝うように」という指示が。その通りにすると、成形工程と組み立て工程の間に大量の仕掛かり在庫が発生し、売上はむしろ下がってしまいました。

2ターン目が終わると、労働者部屋でも異論が噴出。「炉を増やすべきだ」「いや、組み立てにもっと人が必要だ」「そもそも労働者同士が柔軟に前後の工程で協力できるようにすべきだ」など、いろいろな意見が出ます。3ターン目に戻ってみると、僕の目の前にある倉庫の初期完成在庫が増えていました。社長が「完成在庫を増やし、プランナーの出荷するブロックの順番を変えます」と宣言。今度は確かに効率が上がったように思えます。

最後のターンの前に、労働者もマネジャーの議論の中に加わって、改善案を話し合う時間が持たれます。「生産性を上げるために、プランナーと成型から組み立てまで1人、組み立て工程専門に1人の労働者を当て、焼成と品質検査の順番を入れ替えて労働者1人で担当することにしよう」という提案が労働者から出て、6人の労働者を4人に減らして実行することに(倉庫番の僕は、幸いクビにならずに済みました)。

労働者チームのほうは、時々こっそり部屋に入ってくるサション教授から「こういうこともやっていいんだよ」みたいな入れ知恵を受けていたので(笑)、いろいろと改善提案をすることができましたが、なんかたかがゲームなのに「単純作業している人って、やっぱり無意識のうちにあれこれ改善を考えるのねえ」と、納得してしまいました。

【「究極の高生産性のラインはセルなんだよ」の言葉にびっくり】

プロセスフロー図を描きながら解説
4ターン目はそれまでで最高の生産性を上げることができましたが、ゲームはそこで終わり。「工場」を出て、元の階段教室に戻ります。そこで、各チームがどんな改善策を実施したのか、2人の社長が発表。「パリ」のチームはうちのチームに比べて、かなりいろいろな施策をやっていました。

次いで、教授の解説。「マネジャーの皆さんの討議を見ていると、みんなお互いに言いたいことを言うだけで、全然お互いのことを聞いていない。しかも、1人1つストップウオッチを持たせたのに、どのプロセスの作業にどのくらいスループットの時間がかかるのかすら、誰も測っていなかった。皆さんは何をどう改善しようとしていたんですか?」聞いている受講生は皆恥ずかしげです。フローチャートを描いてブロック一定数当たりのそれぞれの工程の作業時間を書き出し、さくさくとボトルネック分析をしてみせるサション教授を見ながら、こんな授業がオペレーション戦略の1回目だったら、それからの授業がどんなに楽しいだろう…などと思いました。ちなみにこのゲーム、サション教授のオリジナルプログラムだそうです。すごい!

この教授、とにかくクラス内で皆を面白がらせようというサービス精神がすごいので前から感心していたんですが、今日は「プロセスの改善をするには、まずボトルネックを特定し(Identify)、ボトルネックを解消し(Eliminate)、ライン全体のムダを取り(Subordinate)、最後にライン全体の生産性を向上させる(Elevate)方法を考える。頭文字を取ってIESE、これがオペレーションの基本です」という最後の見事(?)な決めゼリフに、うっとり聞き惚れるしかありませんでした(笑)。

また、「じゃあ、今日のプロセスを究極に最適化したらどんなラインになるか?それは『セル』だ」と、教授がホワイトボードに3人で回す屋台の絵を描き始めたのにはちょっとびっくりしました。まあ、屋台生産自体は世界的に超有名ですから、オペレーション戦略の教授が知らないわけはないのですが、このあたりは「カンバン」「ヤタイ」「多能工」といった、日本のメーカーの知恵と用語が飛び交うところですね。

講義終了の盛大な拍手の後には、A棟の1階のスタンドバー(そう、蔦の絡まるお屋敷で有名なIESEの最初の校舎「A棟」の1階って、スタンドバーだったんですね!)で、cava(スパークリングワイン)で乾杯。オペレーション戦略って楽しいなあ、と心から思った午後のひとときでした。