感傷的な閉講式

修了証書と記念写真金曜日は最終日で、午前中が「企業訪問」。バルセロナ近郊のワイナリーに連れて行ってもらえると聞いていたのですが、バスに乗って着いたのはこちらカタルーニャ地方を代表する企業の1つで、トーレスというワインメーカーでした。で、最初にトーレスのワインの歴史を解説する映画を見せられ、次にワイナリー内を走る電気観光列車に乗せられて、ブドウ畑やワインセラー、ボトル詰め工程などを見学。最後に4種類ほどのワインを試飲して、直営ショップを通ってお帰りという、インタビューとか何にもなくてただのワイン工場見学じゃーんという、でもみんな試飲で酔っぱらってお土産のワインを買って大満足というお気楽なツアーでした。

学校に戻ってからプログラムに対するアンケートを書きました。すべてのコースに対して「事前の情報は十分だったか」「コース中の学びは大きかったか」「学んだことは役に立つか」「コンテンツとメソッドは良いか」「コースに関連した資料などは十分か」「クラスの設計は良かったか」「教授は十分疑問に答えていたか」「教授は良く準備していたか」という8項目について5段階で評価し、かつコメントも書くという内容でした。酔っぱらっていたので(笑)適当に5と4に○を付けて出してしまいましたが、Gのアンケートに比べてややコンテンツや設計といった中身の部分にまで踏み込む内容のアンケートだったのが(IFDPだけかもしれませんが)印象的でした。

アンケートを書き終わったら、いったんホテルに戻って少し休憩し、18時30分からいよいよ閉講式です。教室には、学部長のホルディ・カナルス教授、IFDPプログラムディレクターのハビエル・サントマ教授、リュイス・レナルト教授をはじめ、ケースメソッドのカルロス・ガルシアポント教授やコースデザインのホアンナ・マイル教授、リーダーシップのパブロ・カルドナ教授など、主な教授陣も集まってきていました。

Bowing
アルファベット順に1人1人名前を呼ばれて、学部長から修了証を受け取ります。僕が出て行くと、後ろから「日本人だからお辞儀をするんじゃないか」的な期待感が伝わってきましたので、半分ウケ狙いでお辞儀をして受け取り、見事に笑いが取れました(笑)。修了証は、冒頭の写真のように、証明に加えて初日に撮影した記念写真、そして1人1人の顔写真の下に名前の入った「IFDP16期生」というカラーの写真名簿とセットになっていました。あと、自分の席の前に立ててあった名札をそれぞれ記念に持って帰りました。

【IESEの教育の理念と成果を淡々と語る学部長のスピーチに感動・・・】

修了証の授与が終わると、参加者代表、プログラムディレクターのサントマ教授、そして学部長のカナルス教授の順にスピーチがありました。参加者代表は、フィリピンから来たロランド氏です。彼のスピーチは非常に格調高く、分かりやすい英語でしたがIESEの教授陣に対する感謝の気持ちが深く伝わるものでした。あまりにも素晴らしかったので、後に演壇に立ったサントマ教授が「ロランドさんのスピーチで終わりにできれば最高だったのですが…」と苦笑しながら話し始めたほどでした。

しかし、僕が本当に心を打たれたのはその後の学部長のカナルス教授のスピーチでした。彼は、次のようなことを話していました(例によって川上の超訳です)。

ピーター・ドラッカーも言うように、21世紀はマネジメントの世紀である。歴史上これほどプロフェッショナルなマネジメントが必要とされている時代はなく、その必要性は今も日々高まり続けている。我々、そしてIFDPの参加者の皆さんはそうした時代の中で、世の中が必要とする優れたプロフェッショナル・マネジャーを育て、世に送り出すという使命を負ってここにいる。今年はHBSが設立されて100年、IESEはHBSほどの規模はないが50周年を迎えた。マネジメントの世紀はまだ始まったばかりで、我々はこれからやらなければならないことがまだたくさんある。

皆さんの多くは発展途上国から来られている。おそらくIESEを見て、皆さんはこう思われただろう。うちの学校にはこんな立派な教室はない。教授もいない。予算もない。何かやろうにも時間がない。ケースメソッドを認めてくれる人も回りにいない。でも、それはスペインの我々だって50年前には同じだったのです。50年前にIESEが設立された時、スペインはまだ独裁政権が続いており、スペイン内戦の傷も癒えておらず、ヨーロッパの中で最も経済の遅れた国とされていた。

我々はそこからスタートして、何度も苦境を乗り越えて自分たちの信じる未来を実現しようと努力した結果、今ここまでやってきた。これは我々IESE、あるいは教授という職にある人間だけの話ではなく、スペインという国とそのプロフェッショナル・マネジャーたちの話だ。だから皆さんも、たとえ今目の前であらゆるものが足りないとしても、皆さんがプロフェッショナル・マネジャーを育て、彼らに大きな精神的影響を与えることのできる教職として、「いつかできる、だから未来を信じ、夢を持つべきだ」ということを我々を見ることによって信じ、皆さんの接する人々に伝えてほしい。

我々が皆さんに期待しているのは、優れたプロフェッショナル・マネジャーは社会を、会社を、あらゆる組織を変えられる、それによって夢をを実現できるということを信じること、そしてそれに向かってチャレンジすること、つまりIESEがこれまで世の中に伝えようとしてきた価値を、皆さんも1人でも多くの人に伝えてほしいということだ。この1ヶ月、本当にお疲れ様でした。

こういう内容を、淡々とした語り口でしゃべられると、涙腺が崩壊するんですよねー僕は。おかげでスピーチの後半はポロポロ涙をこぼしていました。でも、回りにも目の赤い人が何人かいました。スピーチの終わったあとに拍手がやみませんでしたね。きっと他の参加者も、自分の祖国のことを思い浮かべて万感の思いだったことでしょう。

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バルセロナの夜景の中で】

感動的な閉講式の後は、バスに乗ってモンジュイックの丘へ。なんと、モンジュイックのロープウェイの駅近くの絶壁の上に立っている、バルセロナの街を一望できる素晴らしい眺めのレストランが予約されていたのです。店の外側には「Restaurant」とだけしか書いていないし、ガイドブックにも載ってないという謎のレストランでした。聞いてみたところ、人数の少ないIFDPのクロージング・パーティーだけに使われるレストランだとのことです(MBAコースは人数が多すぎるので、学内のレストランで卒業パーティーが行われます)。

ここで、ちょうどガルシアポント教授とお隣り合わせに座ることができたので、彼に最後にいろいろな話を聞いてみました。面白かったのは、「IESEはどこの認証を取っているんですか?」と聞いた時の返事です(IESEは、実際にはAMBA、EQUISの認証を取っています)。彼は「認証?あんなもの、何の意味もない。世の中からちゃんと認めてもらっている学校に認証なんかいらない。認めてもらえてない学校にとっては、確かに必要だろうけどね」と皮肉たっぷりの返事。

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横にいたブラジルから来たマルコスという参加者が「やっぱりランキングのほうが重要だからですか?」と聞くと、教授は「ランキング?あんなもの、もっとインチキだ。順位なんか上げようと思えば上げられるし、下げようと思えば下がる。昔、IESEでランキングの順位を上げるための委員会というのを作って、マスコミが調査対象にしているリクルーターに模範問答例を配布したり、年収の上がった受講生を集めたリストを渡したりしたら、10位ぐらい一気に上がった。インチキだよあんなもん」と、一刀両断でした。

ほかにもいろいろと面白い話をしていましたが、今回のプログラムの中で僕が一番人間的な魅力を感じたのは彼でしたね。テクニックではなく、信念と身体でぶつかろうとする教育者だなあと思いました。

そんなわけで、プログラム最後の夜は見事な夜景とおいしい食事でふけてゆきました。最後はみんな、スペイン式のハグ&キスでお別れのあいさつ大会。なぜか僕もその中に巻き込まれます。帰り際、リーダーシップのカルドナ教授に「日本人ってたいていドイツ人と同じようにものすごく真面目で何にもしゃべらなくて黙って座ったままなんだけど、君はどうも日本人じゃないみたいだね?IESEに来て、ラテン系になっちゃったの?」と声をかけられました。実はもとからそういう性格なんです…と言いかけましたが、うまく言葉にならなかったので笑顔で返しておきました(笑)。というわけで、頭に血が上りやすくておしゃべりで涙腺が緩いラテン系な性格であることが、本場でも証明されたようです。