講師FBに潜入!

新人講師に対するフィードバックの様子今日は、朝1限目がなく、2限目に「ビジネススクールのマネジメント(Institutional Management)」、3限目に「コミュニケーションの説得力(Persuasive Communication)」、そしてランチを挟んで4限目に「リーダーシップ(Leadership in Context)」という、どれも今日が初めてとなるセッションがありました。

1つめのクラスは、カルロス・カバジェ(Carlos Cavallé)教授の講演でした。この教授は、リンク先を見ていただければ分かりますが、マネジメントの教授であると同時に過去17年間IESEの経営の中心となってきた(うち1992年から2001年までは学部長を務めた)人で、欧州のMBAスクール認証機関「EQUIS」の理事も務めている人です。一言一言にものすごい重みのある人でしたが、しゃべっている内容も聞いている側は「え?そこまで言って良いの?」と思うぐらいずばずばとビジネススクールの経営についての手の内をしゃべっていて、びっくりしました。

カバジェ教授のお話の内容は、僕の大事な宝物に取っておきたいと思います(笑)。こればかりは、僕が学部長になるまでは絶対他人に話せません(爆)。

さて、今日はその後にあった「Leadership in Context」のクラスの話をしたいと思います。

このクラスは、9回のセッションで「リーダーシップとは何か」から「異文化マネジメント」まで、グローバル企業のリーダーシップについて学ぶセッションです。初めは「BSの教授に、リーダーシップを教える方法を教えてくれるのかな」と思ったりしていましたが、テキストとケースを受け取って読んでみたところ、どうもIESEがエグゼクティブ向けのコースなどで提供しているリーダーシップのクラスを、そのままやるもののようでした。

それは良いのですが、今日のセッションはドイツ人のセバスチャン・レイヒ(Sebastian Reiche)という、見た目30そこそこの助教授が担当ということだったので、「ん?」と思っていたら、案の定(僕の目には)確かにバックにきれいなシナリオはあるようなのですが、ファシリテーションがぎこちないのです。

【新人講師のメンタリングに同席】

まず、質問がよく聞き取れない、かつ何を聞かれているのかよく分からない(最初は僕の英語力が足りないからかな?と思ったのですが、正直ほかの人も似たような感じだったみたい)。また、本題から多少外れるのに結構良い意見を言っている受講生をあっさりスルーして本題を議論し続けようとする、個々のポイントでセオリーをしゃべるだけでその具体的な様子、過去の他の企業の事例など、具体例がほとんど出てこない。いわゆる「誰か他の人からシナリオを吹き込まれた初心者講師」っぽい香りが漂ってきます。

「この教授、妙に下手くそだな…」と思っていると、一番後段の席で、このコースの最後のセッションで登壇する予定のはずの、「組織マネジメント(Managing People in Organizations)」領域が専門のパブロ・カルドナ(Pablo Cardona)教授が、クラス中ずっとレポート箋を開いて何やらメモを取っているではないですか!しかも、横にはこのコースを担当するもう1人の若い講師も並んでいます。

「これはもしや…」と思い、クラス終了後にカルドナ教授のところに近寄って「すみません、ちょっと失礼なことをお聞きしますが、セバスチャン助教授はこのセッションをやるの、何回目ですか?」と尋ねてみると、「ああ、今日が初めてですよ。このクラスは普段は私がやるのですが、彼らに何回か見学してもらい、さらに何を教えるのかを考えて、私の前で何回かやってもらって、それから登壇するのです」とのこと。「やっぱりそうですか。私も日本の自分のスクールでは、新人講師のクラスのメモをよく取るんです。これからフィードバックをされるんですよね?」とたたみかけると、「ああ、やりますよ」との答えです。

しめた!と思い、「もし良ければ同席させていただけませんか?」とお願いすると、「セバスチャンさえ良ければ、いいですよ」との返事。というわけで、クラス後の講師FBセッションに潜り込むのに成功しました。冒頭の写真は、カルドナ教授(右)がレイヒ助教授(左)にフィードバックしているところを撮影させてもらったものです。これを、ここIESEでは「メンタリング」と呼ぶそうです。横にいた次回のクラスを担当する台湾人のリー・イーティン(Yih-teen Lee)というもう1人の助教授が「これは本当に役に立つんですよ」と教えてくれました。

メンタリングの内容は、驚くほどグロービスで我々が新人講師に対してやっているQAフィードバックとそっくりでした。以下、カルドナ教授がレイヒ助教授に対してしていたフィードバックの内容を、箇条書きにしてみました。ちなみに、ケースは、「90年代半ばに民営化されたばかりのハンガリーの銀行をアメリカの金融機関が買収し、マネジャーとして送り込まれたアメリカ人のMBAホルダーが、この銀行に企業向け融資の焦げ付きが多いことを発見し、赴任から2ヶ月目に支店に持たせていた審査機能を本店に集めるという通達をメールで出し、それによって焦げ付き率が大幅に減った」という、たったそれだけの内容の2ページのケースです。

  • 最初の10分ではあまりみんなの意見を引き出すことができていなかった。後半は何人かの受講者がたくさん発言してくれたり、IESEのドクターコースの学生がロールプレイで良い演技をしてくれたりして助かったけれど、もう少しみんなをちゃんとコントロールして意見を言わせるようにしたほうが良い。特に前半。
  • 最前列にいたロシア人の女性が最初に滔々と意見を述べていたのに、その後ぱったりと意見を言わなくなってしまっただろう。あれは、彼女の意見をきちんと認めてあげなければいけない。でないと、ああいうふうにしゃべらなくなってしまう。
  • 通常の企業研修ではケースを読んでこない受講生も多いので、主人公はどんなバックグラウンドを持つかといった基本的な質問が必要だが、MBAコースの受講生にはそのような情報の整理のためだけの質問は要らない。
  • 主人公が過去どんなポジションにいたかという点に強くこだわっている女性がいたが、ああいう受講生の発言に取り合ってはいけない。時間の無駄。
  • ただクラスを歩き回るだけでなく、しゃべっている受講生のところに近づいていくなど、もっとコンタクトをちゃんと取らなければ。また、黒板に文字を書いている時間は沈黙だけが流れて、クラスのテンションが下がる。何かしゃべりながら書いたり、あるいはクラスのほうを見ながらキーワードのイニシャルだけ書くだけでも良いんだ。とにかく、板書に気を取られて沈黙の時間を作らないこと。
  • 質問がわかりにくかった。「国とリソースの関係は何?」という質問には、誰もすぐには答えられない。もっと具体的に答えやすい質問を投げる、例えば「あなたならどうするの?」とか、あるいは受講生に理解させたい人物の立場を演じて見せる、「回りはみんな英語が分からない。本社から来たのは俺だけ。何を質問しても誰もがニヤニヤするばかり。」などとやってから尋ねるとか、もっと工夫して。
  • ナイーブな質問をしていた黒人女性がいただろう。ああいう人をすぐに"刺し"てはダメ。エグゼクティブコースにはああいう人は多い。2年目のMBA生ならOKだが、ああいう人は刺すと血が流れるよ(笑)。それから、ナイジェリアの黒人男性がまったく些末なところにこだわっていただろう。あれは、ナイジェリアの文化に特有なのだけれど、決して厳しい顔で否定してはいけない。ああいう人は、ふざけた身振りを取ったりしながら、笑顔でかわすんだ。これは文化的な問題だけれどね。
  • 話のスピードは、ちょっと早かったな。あれが限界だろう。あれ以上早いと、たぶん聞き取れない。また小さい声の受講生が発言するときは、その受講生から離れたところに動いて、「え、なんて言った?もっと大きな声で!」といった指示を出すこと。
  • ラップアップのところは、ちょっと早すぎた。あれは確かにしっかり聞かせるのは難しいが、もっときちんと一言一言強調しながら聞かせなければ。エグゼクティブではラップアップに入ったと思ったら、誰も手を挙げなくなるが、MBAコースだと自分でラップアップまでやりたがる受講生が出るので、注意して。必ず大きなゆっくりした声で、しっかりラップアップすること。
  • まあ、最初にしては上出来だった。

といった内容でした。コンテンツに関しては、私は見ていなかったのですが、他の参加者が教壇の上を見に行ったら、75分のセッションの中でどういう順番で何を尋ね、どんな議論をしてどういう板書をするかが書かれた紙が75分間分並んでいたとのことで、相当事前のインプットがしっかりされているようでしたのでフィードバックで触れてはいませんでしたが、プレゼンテーションや受講生の扱い方のフィードバックについては、横で聞いていた私自身は「ちょっと物足りないなあ」という感じでした。

というのも、1つは上に書いたように少し後のほうで意味を持ってくる良い意見を言った受講生をさくっと流してその後も拾わずに終わってしまったこと、またハンガリー人の女性が「私の国にはこんな銀行はない。これはどこの銀行のことか?」と執拗に尋ねるのを、「ああいう意見に取り合ってはダメ」の一言で終わってしまった(我々なら、LPと関係のない論点やケース以外のファクトにこだわる受講生がいた場合には、それを取りなすテクニックはどういうものがあるのかをきちんと講師にフィードバックします)ことなどのためです。

ただ、そうは言っても「○○地域の受講生はこういう文化だ」「○○国の受講生がいたらこういう対応をすること」といった注意が、たくさん飛んでいたのを見ても、「ああ、やっぱりグローバル相手に上手なケースファシリテーションをするためには、受講生の国籍などによる細かい文化的なコミュニケーションスタイルの違いをよく踏まえることが必要なんだ」と痛感した次第です。そして、こうした細かい(でもさまざまな企業の研修、さまざまな国から学生を受け入れたプログラムを高い品質で展開するためには絶対必要な)ノウハウの伝授を、組織的にやっているからこそ今のIESEがあるのだということも分かりました。

IFDPのプログラムも1週間目が終わり、そろそろ単にクラスにいて講義を聴いているだけでは満足できなくなって、裏側の仕組みをあれこれ見たくなってきました(笑)。来週はさまざまなコネクションも頼りながら、IESEという欧州トップのビジネススクールを支えている、さまざまな裏の「仕組み」について探りを入れていきたいと思います。